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廃棄物処理・リサイクル業者が押さえておきたいインボイス制度の基本と対応策
「制度の内容がわからない」「廃棄物処理・リサイクル業者特有のポイントはないの?」などお困りではないでしょうか。また、消費税や仕入税額控除と深くかかわるため、わかりにくいと感じている方も多いのではないでしょうか。
結論から述べると、廃棄物処理・リサイクル業者も対応を検討しなければなりません。取引先にあたる排出事業者の仕入税額控除に関わってくるためです。
そこで本記事では、同制度の概要とともに廃棄物処理・リサイクル業者が行いたい準備などを解説します。
< 目次 >
インボイス制度とは
売り手にあたる発行事業者が、買い手にあたる課税事業者からの求めに応じてインボイスを交付しなければならない制度です。
発行事業者は課税事業者に交付したインボイスのコピーなどを保存しておかなければなりません。
また、課税事業者は、仕入税額控除を受けるため発行事業者から交付されたインボイスを保存する必要があります。この制度は、令和5年10月1日からスタートします(2022年12月時点)。
では、交付や保存を求められる「インボイス」とはどのようなものなのでしょうか。
簡単に説明すると、売り手にあたる発行事業者が買い手にあたる課税事業者に正確な消費税率や消費税額を伝えるため、これまで用いられてきた請求書などに必要な情報を加えた書類やデータです。
一定の条件を満たしていれば、請求書・納品書・レシートなどをインボイスとして用いることができます。条件を満たした請求書などを適格請求書といいます。したがって、インボイス制度は適格請求書等保存方式と呼ばれることもあります。
ここまでの内容をまとめると、同制度は廃棄物処理・リサイクル業者などの売り手が正確な消費税率や消費税額を記載した適格請求書を交付し、買い手が保存などをすることによって仕入税額控除を受けられる制度といえるでしょう。
参照元:「インボイス制度の概要」
インボイス制度では区分記載請求書から適格請求書へ
同制度と関わりが深いのが、令和元年(2019年)に実施された消費税率の引き上げです。
具体的には、消費税率を10%に引き上げるとともに飲食料品(食品表示法に規定する種類を除く食品)、新聞(週2回以上発行で定期購読契約のもの)に対しては8%の軽減税率が適用されることになりました。
10%の消費税率と8%の消費税率を適用される商品やサービスが混在する状況となったため、消費税率や消費税額を明らかにする目的で導入されたのが同制度です。
ただし、消費税率の引き上げと同時にこの制度が導入されたわけではありません。経過措置として、令和元年10月1日から令和5年9月30日まで区分記載請求書等保存方式が導入されることになりました。
同方式の導入により、請求書の記載方式や経理の方式が変更されています。
具体的には、区分記載請求書などが用いられ、税率ごとに処理をする区分経理が行われるようになりました。つまり、インボイス制度が開始されると、取り扱う請求書が区分記載請求書から適格請求書へ変わることになります。
両請求書にはさまざまな違いがあります。代表的な違いといえるのが記載事項です。
それぞれの記載事項をまとめると次のようになります。
【区分記載請求書の記載事項】
- ・書類作成者の氏名または名称
- ・取引を行った年月
- ・取引の内容
- ・取引にかかった金額
- ・書類を交付される事業者の氏名または名称
- ・軽減税率の適用を受けること
- ・税率ごとに合計した対価の額(税込価格)
【適格請求書の記載事項】
- ・書類作成者の氏名または名称
- ・取引を行った年月
- ・取引の内容
- ・取引にかかった金額
- ・書類を交付される事業者の氏名または名称
- ・軽減税率の適用を受けること
- ・税率ごとに合計した対価の額(税込価格)
- ・発行事業者の登録番号
- ・税率ごとに合計した消費税額および適用税率
適格請求書は、区分記載請求書の記載事項に加え「発行事業者の登録番号」と「税率ごとに区分して合計した消費税額および適用税率」の記載が必要になります。これらの記載事項は、請求書と納品書などを組み合わせて満たすこともできます。
また、区分記載請求書は受領者による追記(「軽減税率の適用を受けること」「税率ごとに合計した対価の額(税込み価格)」)を認めていましたが、適格請求書はこれを認めていません。
同様に、消費税額を記載事項としない区分記載請求書は消費税における端数処理のルールを定めていませんが、消費税額を記載事項とする適格請求書はこれを定めています。
具体的には、税率ごとに合計した対価の額に税率を乗じ端数処理を行うことになります。
計算方法を誤ると税込みの請求金額に差が出ることがあるため注意が必要です。
インボイス制度では適格請求書を発行するには事業者登録が必要になる
適格請求書の発行には各発行事業者に割り振られた登録番号の記載が必要です。したがって、交付できるのは登録を済ませた発行事業者だけです。
原則として、登録を行えるのは消費税の課税事業者となっています。(※課税事業者は発行事業者と発行事業者に登録していない課税事業者にわかれます。)ここでいう課税事業者は、消費税の納税義務がある事業者といえるでしょう。
具体的には、課税期間(個人事業主:暦年・法人:事業年度)の基準期間における課税売上高が1,000万円を超えると当該事業者は消費税の課税事業者になります。
個人事業主の基準期間は前々年、法人の基準期間は前々事業年度です。ただし、以上の条件を満たさなくても、特定期間(個人事業主:その年の前年の1月1日から6月30日、法人:その事業年度の前年度の開始から6カ月間)における課税売上高が1,000万円を超える場合は、当該課税期間は課税事業者となります。
出典:消費税の仕組み
以上の条件を満たさない場合は、基本的に免税事業者となります。免税事業者は原則として適格請求書を発行できません。
免税事業者も消費税課税事業者選択届出書を提出すれば課税事業者になれます。
また、令和5年(2023年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日までの日が属する課税期間中に登録を受ける場合は、消費税課税事業者選択届出書を提出しなくても発行事業者の登録申請書を提出すれば登録を受けて課税事業者と認められる措置が設けられています。
ただし、登録を受けると課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても登録が有効である限り課税事業者となるため注意が必要です。また、登録日から2年を経過する日が属する課税期間の末日まで免税事業者に戻ることは基本的にできません。
したがって、「適格請求書発行事業者の登録の取り消しを求める旨の届出書」を提出しても課税事業者として扱われ消費税の申告・納税が必要になります。納税額に影響が及ぶため、慎重に検討してから申請する必要があります。
なお、発行事業者の登録は義務ではありません。それぞれの事業者の意志に基づき決定できます。
出典:「消費税の仕入れ税額控除の方式としてインボイス制度が開始されます」
インボイス制度では仕入税額控除の対象は適格請求書のみになる
登録が任意となっているため、発行事業者にならなくてもよいと考える方もいるでしょう。前述の通り義務ではありませんが、登録しないデメリットを十分に理解しなければなりません。
課税事業者の求めに応じて発行事業者が交付した適格請求書等の保存と一定の事項を記載した帳簿が仕入税額控除の要件となっているからです(買い手が簡易課税制度を選択している場合は除く)。
具体的には、課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間の保存が要件となっています。
ちなみに仕入税額控除は、消費税の納税額を算出する際に売上に課された消費税額から仕入れに課された消費税額を差し引くことです。仕入税額控除を適用できないと消費税を重ねて課税される、納税額が大きくなる恐れがあります。
保存しなければならない書類などは、「適格請求書または適格簡易請求書」「必要事項が記載された仕入明細書、仕入計算書など」「一定の取引については取次業務を行うものなどが発行する要件を満たす書類」、「以上の書類に関する電磁的記録」となっています。
区分記載請求書等保存方式と同様に、一定の要件を満たす仕入明細書なども売り手の確認を受けたものは仕入税額控除の要件として認められている点に注意が必要です。
ただし、この場合も必要事項を記載しているものでなければなりません。具体的には、区分記載請求書等保存方式の仕入明細書に求められる記載項目に加え、登録番号・適用税率・税率ごとに区分した消費税額等の記載が必要になります。
出典:「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き2022」
インボイス制度では適格請求書発行事業者以外からの請求書等は経過措置が適用できる
この制度がスタートすると、発行事業者以外からの課税仕入れは仕入税額控除の対象外となってしまいます。要件となっている請求書等の交付を受けられないからです。
ただし、大きな混乱を避けるため、令和5年(2023年)10月1日から令和11(2029年)年9月30日までは経過措置が設けられています。この間は、発行事業者以外からの課税仕入れであっても、税額相当に対する一定割合を仕入税額と捉えて控除できます。
具体的には、令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日までは80%が控除可能、令和8年(2026年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日までは50%が控除となります。以上の期間を過ぎると、適格請求書などの保存がない課税仕入れは仕入税額控除の対象から外れます。
経過措置を適用する場合、帳簿においては区分記載請求書等保存方式の項目に加えて経過措置を適用する課税仕入れであることがわかる記載(免税事業者からの仕入れとわかる記載や○○%控除の対象など)、請求書においては区分記載請求書等と同じ項目が必要です。
出典:「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き2022」
インボイス制度では税額計算の方法が一部変更される
同制度導入後の売上税額計算方法と仕入税額計算方法は以下のようになります。
売上税額は、原則として割戻計算により税額を算出します。
この計算方法では、消費税率8%が適用される売上税額と消費税率10%が適用される売上税額を算出して売上税額の合計額を求めます。具体的な計算方法は次の通りです。
【割戻計算(売上税額)】
- 1.消費税率8%が適用される売上税額=消費税率8%が適用される課税売上の合計額(税込)×100/108×6.24/100
- 2.消費税率10%が適用される売上税額=消費税率10%が適用される課税売上の合計額(税込)×100/110×7.8/100
- 3.売上税額の合計額=1+2
課税事業者に交付した適格請求書などを保存している場合は、特例として積上げ計算で税額を算出できます(発行事業者のみ選択可)。
【積上げ計算(売上税額)】
- 1.売上税額の合計額=適格請求書等に記載した消費税額等の合計額×78/100
積上げ計算で税額を算出する場合は、仕入税額も積上げ計算で算出することになります。取引先により計算方法を使い分けるなど、割戻計算と積上げ計算を併用することも可能です。
ただし、併用の場合も積上げ計算を選択すると、仕入税額の計算に割戻計算を選択することはできません。
仕入税額の計算方法も、割戻計算と積上げ計算にわかれます。ただし、原則となるのは積上げ計算(請求書等積上げ計算)です。
原則とする計算方法は売上税額と異なります。具体的な計算方法は次の通りです。
【積上げ計算(仕入税額)】
- 1.仕入税額の合計額=適格請求書等に記載されている消費税額などの合計額(課税仕入れにかかるもの)×78/100
課税仕入れのたびに仮払い消費税額などを算出し帳簿に記載している場合は、これを合計した金額に100分の78を乗じて算出することもできます(帳簿積上げ計算)。
売上税額を割戻計算で算出している場合は、特例として割戻計算による仕入税額の算出も認められています。具体的な計算方法は次の通りです。
【割戻計算(仕入税額)】
- 1.消費税率8%が適用される仕入税額=消費税率8%が適用される課税仕入れの合計額(税込)×6.24/108
- 2.消費税率10%が適用される仕入税額=消費税率10%が適用される課税仕入れの合計額(税込)×7.8/110
- 3.売上税額の合計額=1+2
仕入税額の算出は、請求書等積上げ計算と帳簿積上げ計算を併用できます。
一方で、これらと割戻計算を併用することはできません。原則の計算方法となるのは積上げ計算です。
出典:「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き2022」
課税事業者がインボイス制度で準備すること
制度開始に向けて課税事業者が準備することは以下の通りです。
発行事業者の登録を済ませる
納税地を管轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出して発行事業者の登録を受けます。登録手続きはe-Taxや郵送でも可能です。
登録拒否要件に該当しない場合は、登録簿に登録されて通知を受けられます。
【登録拒否要件】
- ・「定めがあるにもかかわらず納税管理人の届出をしていない」
- ・「消費税法に違反して罰金以上の刑に処され執行が終わった日(または受けることがなくなった日)から2年を経過していない」(特定国外事業者を除く)。
制度開始から登録を受けたい場合、原則として令和5年(2023年)3月31日までに登録申請書を提出しなければなりません。
適格請求書への対応状況を確認
区分記載請求書と適格請求書では必要とされる記載項目が異なります。同制度がスタートするまでに対応状況を確認しておかなければなりません。
販売管理システムなどを利用している場合は、サービス提供主体に対応状況を確認するとよいでしょう。
表計算ソフトなどを使って自社で請求書を作成している事業者は、フォーマットの確認が必要です。
これを機に、対応した請求書発行システムを導入するのも一つの選択肢です。
売り手としての準備
自社が発行する書類の中からインボイスとするものとその交付方法を決定します。
活用するものとして請求書・レシート・納品書など、交付方法として電子インボイスなどがあげられます。ケースによっては、経理システムの改修なども必要です。
また、関係が深い取引先に登録番号、インボイスとする書類、その交付方法などを説明しておくことも欠かせません。取引先と連携しながら準備を進めるとよいでしょう。
買い手としての準備
売り手の準備と大きく変わりません。必要がある場合は、経理システムなどの改修を検討します。
また、関係が深い取引先に登録番号、インボイスとする書類、その交付方法などを確認しておきます。
制度が始まる前に、対応状況を確認しておくことが重要です。
免税事業者がインボイス制度で準備すること
制度開始に向けて免税事業者が準備することは次の通りです。
発行事業者への登録を検討
発行事業者への登録は任意です。全事業者が登録しなければならないものではありません。
免税事業者は登録の必要性を最初に検討する必要があります。
検討材料としてあげられるポイントは以下の通りです。
【登録の検討材料】
- ・主要な取引先がインボイスを必要としている
- ・登録の有無による影響
主要な取引先が一般消費者や免税事業者であれば基本的に同制度への対応は不要です。簡易課税制度を選択している課税事業者も同じといえます。
その他の課税事業者は基本的にインボイスを必要としますが、制度開始から6年間は仕入税額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。
取引先に与える影響や自社のビジネスに与える影響などを踏まえて必要性を検討するとよいでしょう。
登録が必要な場合は、令和5年(2023年)3月31日までに登録手続きを行います。
売り手としての準備
どの書類をインボイスとするか決定したうえで必要な修正を加えます。併せて交付方法、保存方法などの検討も進めましょう。
次に、主要な取引先に発行事業者の登録を受けたことと登録番号、インボイスとする書類、その交付方法などについて説明します。
買い手としての準備
課税簡易制度の適用について検討します。
適用する場合は、仕入税額控除のためインボイスを保存する必要はなくなります。課税簡易制度は、納税事務の負担を軽減する目的で事業区分ごとに定められたみなし仕入れ率をもって消費税額を算出できる制度です。
この制度を適用しない場合は、主要な取引先が交付する請求書等が仕入税額控除の要件を満たしていることを確認しなければなりません。
また、請求書等の保存方法、帳簿への記載方法、仕入税額の計算方法などについても検討が必要です。
適格請求書の保存期間
発行事業者から交付を受けた適格請求書の保存期間についても確認が必要です。
具体的には、課税控除を適用する場合、受領日が属する課税期間に対応する消費税確定申告の申告期限の翌日から7年間にわたり納税地の事業所などで保存することが求められます。同様に、発行事業者も7年間にわたり適格請求書(適格返還請求書等を含む)のコピーなどの保存が必要です。
適格請求書の保存が不要になる場合
ただし、何かしらの理由で請求書を受け取ることが難しい取引などは、要件を満たす帳簿の保存で仕入税額控除が認められます。
具体的には、以下のものなどが挙げられています。
【帳簿保存で仕入税額控除が認められるもの】
- ・3万円未満の公共交通機関の利用
- ・3万円未満の自動販売機などからの商品購入
- ・発行事業者ではないものからの再生部品の購入
- ・発行事業者ではない宅地建物取引業を営むものからの建物の購入
- ・発行事業者ではない古物営業を営むものからの古物の購入
- ・従業員に支給する出張旅費など(通常必要と認められるもの)
帳簿の保存だけで仕入税額控除の適用を受けたい場合、通常の記載に加えて「帳簿保存で仕入税額控除が認められているものに該当すること」「仕入相手の住所・所在地(一定のものを除く)」の記載が求められます。
廃棄物処理・リサイクル業者がインボイス制度に向けて行うこと
基本的に、廃棄物処理・リサイクル業者に限って特別に必要な対応は無いと考えてよいでしょう。
通常通り、発行事業者への登録申請や自社が発行する請求書などのフォーマット変更、管理方法の決定が必要になります。
以下のポイントは、対策や事前の検討が漏れやすい点です。
- ・自社が発行する請求書以外の帳票への対応(領収書、仕切書、支払明細書)
- ・過去に発行した請求書を再発行する際の対応
- ・電子請求システムや財務システムとの連携に関わる変更対応
これから準備をされる方はもちろんのこと、順調に準備を進めている方も、いま一度状況をチェックしてみてはいかがでしょうか。
できることから準備を始めましょう
いかがでしたでしょうか。
インボイス制度の概要と廃棄物処理・リサイクル業者が取るべき対応について解説しました。
この制度がスタートすると、仕入税額控除の要件などが大きく変わります。具体的には、同制度に対応していない事業者からの仕入れは仕入税額控除の対象外となってしまいます。
買い手にあたる事業者の中には、同制度に対応していない事業者からの仕入れを控えるところもあるでしょう。
売り手にあたる廃棄物処理・リサイクル業者は、取引先との関係などを踏まえて発行事業者への登録を検討しなければなりません。
令和5年(2023年)10月1日から登録を受けたい場合は、同年3月31日までに納税地を管轄する税務署長に登録申請書を提出する必要があります。この記事の内容を参考に、ぜひ対応をご検討ください。
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